マンション住戸の使用差止請求と権利の濫用 

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    東京地方裁判所平成16年(ワ)第6060号
    平成17年6月23日民事第13部判決  使用禁止等請求事件


    争点(1)について

    (1)原告は,住戸部分である本件居室を治療院として使用する被告乙山の行為は,本件管理規約12条に違反する旨主張し,被告らは,これを否認する。そこで,「治療院」としての使用は,「住戸使用」に含まれるかについて検討する。

    (2)「住居」とは,居住者の生活の本拠であり,「住戸使用」とは,居住者の生活の本拠としての使用であるか否かによって判断されるべきものである。そして,その使用方法は,生活の本拠というに相応しい平穏さが求められるところ,被告乙山の経営するカイロプラクティック治療院は,上記認定のとおり,〔1〕入居者は被告乙山1名,〔2〕設備はベッド2台,〔3〕営業日は月曜日から土曜日(日・祭日休業)まで,〔4〕営業時間は午前9時から午後7時(ただし,土曜日は午後1時まで)まで,〔5〕利用者は完全予約制,〔6〕治療方法は施術者被告乙山の手による方法で営業しているというものであり,治療院の使用態様は,その規模,予想される出入りの人数,営業時間,周囲の環境等を考慮すると,事業・営業等に関する事務を取り扱うところである「事務所」としての使用態様よりも,居住者の生活の平穏を損なう恐れが高いものといわざるを得ず,到底住戸使用ということはできない。

    (3)そうだとすると,「治療院」としての使用は,「住戸使用」には含まれず,住戸部分である本件居室を治療院として使用する被告乙山の行為は,本件管理規約12条に違反するものと解するのが相当である。


    争点(2)について

    (1)原告は,本件居室を治療院として使用することは,区分所有法57条1項,6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」である旨主張し,被告らは,これを否認する。そこで,治療院としての使用が,区分所有者の共同の利益に反する行為か否かについて検討する。

    (2)ところで,一般に,「共同の利益に反する行為」とは,建物そのものの保存・管理・使用に関するものだけではなく,敷地や付属施設の保存・管理・使用に関する有害行為又は区分所有者の共同の利益に反する行為(ニューサンスを含む。)であれば広く区分所有法6条1項により禁止されると解されるところ、その判断基準としては,当該行為の必要性の程度,これによって他の区分所有者が受ける不利益の態様,程度等の諸事情を勘案して判断すべきものであると解するのが相当である。

    そこで本件について検討するに,本件マンションのような複合住宅においては,使用態様に関する管理規約を遵守しなければ,居住者の良好な環境を維持することはできなくなるところ,前記2に判断したとおり,被告乙山の本件居室の使用態様は,「事務所」としての使用態様よりも,本件マンション居住者の生活の平穏を損なう恐れの高いものである上,被告乙山が原告の承諾を得ることなく本件マンションに面した道路に置き看板を設置して千代田区や警察の警告を受けていることに鑑みれば,区分所有法57条1項,6条1項の「建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為」であるといわざるを得ない。 

    (3)被告らは,本件マンションは,住戸専用部分と事務所専用部分との区画が曖昧であるうえ,入居しているテナントの大部分は,管理規約に基づく区分どおりに使用されているわけではなく,本件管理規約上の専用部分についての用途制限は,無いに等しく,全く有名無実化・形骸化している旨主張する。確かに,前記認定の事実によれば,住戸部分に多数の会社等の事務所が入居していることを認めることができるが,前記2に判断したとおり,被告乙山の本件居室の使用態様は,「事務所」としての使用態様よりも,本件マンション居住者の生活の平穏を損なう恐れの高いものであり,被告らが主張するように,本件管理規約上の専用部分についての用途制限は,無いに等しく,全く有名無実化・形骸化しているとまではいうことはできず,その他これを認めるに足りる的確な証拠はない。

    また,被告らは,被告乙山のカイロプラクティック業による本件専用部分での治療院としての使用状況からして,何ら区分所有者の生活上障害を生じるものではなく,区分所有者の共同の利益及び良好な住環境の確保に違反しない旨主張する。しかしながら,いかに利用者は完全予約制であるといっても,他の住戸部分の区分所有者からみれば,治療院に来訪するのは不特定多数の患者であり,住戸部分に不特定多数の患者が常に出入りしている状況は,良好な住環境であるとは言い難く,住戸部分の区分所有者の共同の利益に反することは明らかである。


    争点(3)について

    (1)上記に認定判断したとおり,被告乙山の本件居室の使用態様は,区分所有者の共同の利益に反する行為であり,原告は,原則として,治療院としての使用の禁止を求めることができることになるが,被告らは,これに対し,本件訴訟の請求は権利の濫用である旨主張するので,この点について検討する。

    (2)前記1に認定の事実によれば,〔1〕本件マンションの5階から9階までは,住戸部分29戸と事務所部分10戸とが並存しており,住戸部分29戸のうち住居として使用されているものが2戸,不明が3戸であり,その余の24戸はいずれも会社等の事務所として使用されていること,〔2〕そして,これらの用途違反については,これまで原告から改善の注意や警告が発せられたことはなかったが,平成15年10月になって初めて,原告は,正式に被告乙山ら3件の治療院についてその使用の禁止を求めていること,〔3〕被告丙川の夫である丙川夏男は,本件居室を取得した当時から,本件居室を事務所として賃貸してきており,平成13年10月に,同被告が被告乙山に対し,本件居室を治療院として貸与したときも,被告丙川は,特に用途違反につき認識をしていなかったこと,〔4〕平成16年2月10日の原告の臨時総会において,用途違反に対する行為差止請求の法的手続き実施に関する件につき,総会成立のための有効議決権数838(議決権総数1000)のうち,賛成議決権788,反対議決権13で,反対票を投じたのは,被告丙川だけであり,上記のとおり,住戸部分29戸のうち,用途違反を行っている24戸の区分所有者である組合員は,棄権をしたものを除いて,すべてが被告乙山及び丁原の各居室の治療院としての使用禁止を求める上記案件に賛成票を投じた結果可決されたものであることを認めることができる。そうだとすると,原告が,住戸部分を事務所として使用している大多数の用途違反を長期間放置し,かつ,現在に至るも何らの警告も発しないでおきながら,他方で,事務所と治療院とは使用態様が多少異なるとはいえ,特に合理的な理由もなく,しかも,多数の用途違反を行っている区分所有者である組合員の賛成により,被告乙山及び丁原に対して,治療院としての使用の禁止を求める原告の行為は,クリーン・ハンズの原則に反し,権利の濫用といわざるを得ない。

    なお,前記認定のとおり,被告乙山が原告の承諾を得ることなく本件マンションに面した道路に置き看板を設置して千代田区や警察の警告を受けていることや,被告丙川と同乙山との間の本件居室についての賃貸借契約更新の際に,原告から用途違反についての警告を受けていたという事実はあるものの,上記認定のとおりの原告の本件請求に至る態様に鑑みれば,何ら上記判断を左右しない。


    結論
    以上によれば,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 


    北海道宅建協会|判例Q&A http://www.takken.ne.jp/q_a/answer-1.html

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